中心差の比較(その2)

昨日を見て第一に気付くことは、石原幸男さんのご指摘の通り、アルマゲストと
大衍暦~授時暦が似ていること。特に中心差の最大値で見るとアルマゲストと大衍暦
はほとんど一致します。ただしグラフの方で見ると、アルマゲストと大衍暦では、
近日点や遠日点付近で少し差が目立ちます。

アルマゲストに記載のある月の出差が取り入れられなかったわけですから、唐代の
中国でアルマゲストを直接参考にしたのではないでしょう。しかし、大衍暦の編者は
仏僧である一行ですから、インド経由での影響が疑われます。アルマゲストの太陽
運行理論で、周転円の大きさが1/24(2p30/60p)であるのは、プトレマイオスより300年
近く遡るヒッパルコスの研究によります。よってインドでアルマゲストより前の段階の
ギリシア天文学を受容したことと矛盾しません。

しかしインド経由の影響であったならアールヤバティーヤやスールヤ・シッダーンタと、
もっと似ていてもおかしくありません。似ていない以上、この表の結論としては、
アルマゲストと大衍暦の類似は偶然とするのが妥当です。この表だけではなんとも
もどかしい限りです。

回々暦の値は三角級数の高調波成分が少なく、全体に楕円軌道をよく近似しています。
貞享暦と回々暦のズレは、貞享暦が3次多項式による近似を選択したことによるの
かもしれません。

技術的な観点で気が付いたことをいくつか。

隋唐代の太陽の運行表は各二十四節気での定気と平気のズレを時間で表現したものです。
これは、言い換えると「真近点角υから中心差 υ-Mを引く表」とみなせます。

これに対して回々暦の太陽加減表は独立変数が90度から2度ずれたあたりに中心差の
最大値があり、今回計算してみるとそれがちょうど真近点角90度に相当します。つまり
「平均近点角Mから中心差 υ-Mを引く表」になっているのです。授時暦や貞享暦の3次
多項式も同じ考え方とみられます。貞享暦の中心差の最大値が真近点角90度にない[1]のは
おそらく意図したものではなく多項式の誤差でしょう。

ギリシアでもインドでも中心差は周転円[2]で考えるのは同じですが、インドのマンダ周転円
の計算は半算術的に行われるようです。このため純粋に幾何学的に計算するアルマゲスト
とは異なり三角級数の高調波成分があまりありません。これはインドの特徴と言えると
思います。

[1] 「授時暦と関孝和・建部賢弘の招差法対貞享暦と渋川春海の招差法」p.47では
  平均近点角/日=89で極大にしようという意図ではないかとしています。
[2] 離心円で考えるのと同値

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