小説『天地明察』
小説『天地明察』の話です。
もともと著者のペンネーム「丁」自体、生年の十干に由来する[1]ということで、暦に強い関心を
お持ちとの由。この小説もSF Japan Vol.9(2004 Spring) P.108-129に掲載された「日本改暦事情」
という短編が元になっています。
こちらの「みよこ」さんのスレッドで
>2、著者は緯度と経度をとりちがえているのではないか?
とある指摘は、私も一番に気になりました。…が、たぶん、著者は分かって書いたのではないか
と思っています。というのも、小説前半の大きな話題が「北極出地の旅」で“緯度”を計測する話
だからです。
あれだけ“緯度”を計測する話を書いて、最後に唐突に“経度”の問題が出てくるのでは流れが悪い。
あくまで「天地明察」は論文ではなく小説なのですから、フィクションとして楽しめればよいのでは
ないかと思います。
そもそも「幕命で大規模な測量隊を組織し全国を測量してまわった」というのがフィクションです。
渋川春海の年譜[2]によれば、
萬治2年(1659年) 21歳 西國に遊び北極出地の度数を測定す。是年より圍碁を以て台覧に備う。
とあり、確かに「囲碁の棋譜でーたべーす」によれば1660年正月6日に本因坊道悦と御城碁を
打っています。
翌年正月に江戸城で碁を打っているというアリバイがあるのです。[3]安井家は京都と江戸の両方に
拠点がありますから、中四国で私的に(=遊び)北極星の高度を測るのに、一年以上も江戸や京都を
留守にする特別な「旅」は必要ないのです。
おそらく「北極出地の旅」というフィクションとつなげて「里差=緯度差」というフィクションで説明を
簡略化したのでしょう。
年譜の1行からあれだけのイマジネーション[4]を膨らませるのは、やはり小説家としての才能だ
と思います。以前どこかで豊田有恒さんが「小説のネタを探して古代史を調べていたら小説が
書けなくなった」という趣旨のことを書いておられました。
いかにうまく嘘をつけるか…それが小説の肝だと思います。
[1] 『歴史読本』2012年10月号 P.15
[2] 佐藤政次『暦学史大全』P.206
[3] 小説で「北極出地の旅」が2年後の寛文元年に設定されているのは、このアリバイを避けるため
かもしれません。
[4] そういえば「大長今」も1行だそうです。
-----------
映画『天地明察』については、また別途
もともと著者のペンネーム「丁」自体、生年の十干に由来する[1]ということで、暦に強い関心を
お持ちとの由。この小説もSF Japan Vol.9(2004 Spring) P.108-129に掲載された「日本改暦事情」
という短編が元になっています。
こちらの「みよこ」さんのスレッドで
>2、著者は緯度と経度をとりちがえているのではないか?
とある指摘は、私も一番に気になりました。…が、たぶん、著者は分かって書いたのではないか
と思っています。というのも、小説前半の大きな話題が「北極出地の旅」で“緯度”を計測する話
だからです。
あれだけ“緯度”を計測する話を書いて、最後に唐突に“経度”の問題が出てくるのでは流れが悪い。
あくまで「天地明察」は論文ではなく小説なのですから、フィクションとして楽しめればよいのでは
ないかと思います。
そもそも「幕命で大規模な測量隊を組織し全国を測量してまわった」というのがフィクションです。
渋川春海の年譜[2]によれば、
萬治2年(1659年) 21歳 西國に遊び北極出地の度数を測定す。是年より圍碁を以て台覧に備う。
とあり、確かに「囲碁の棋譜でーたべーす」によれば1660年正月6日に本因坊道悦と御城碁を
打っています。
翌年正月に江戸城で碁を打っているというアリバイがあるのです。[3]安井家は京都と江戸の両方に
拠点がありますから、中四国で私的に(=遊び)北極星の高度を測るのに、一年以上も江戸や京都を
留守にする特別な「旅」は必要ないのです。
おそらく「北極出地の旅」というフィクションとつなげて「里差=緯度差」というフィクションで説明を
簡略化したのでしょう。
年譜の1行からあれだけのイマジネーション[4]を膨らませるのは、やはり小説家としての才能だ
と思います。以前どこかで豊田有恒さんが「小説のネタを探して古代史を調べていたら小説が
書けなくなった」という趣旨のことを書いておられました。
いかにうまく嘘をつけるか…それが小説の肝だと思います。
[1] 『歴史読本』2012年10月号 P.15
[2] 佐藤政次『暦学史大全』P.206
[3] 小説で「北極出地の旅」が2年後の寛文元年に設定されているのは、このアリバイを避けるため
かもしれません。
[4] そういえば「大長今」も1行だそうです。
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映画『天地明察』については、また別途
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