回帰年と春分年 補足
前回の記事に対して、「1年の長さが回帰年になるよう暦を作る」というのは「10000年に閏を2422日入れる」
ということですか…というご質問を受けました。これは「もし回帰年の長さが変わらないなら」という前提
で Yes です。なぜ「1年の長さが回帰年になるよう暦を作る」という持って回った言い方になったかというと、
実際には回帰年の長さは変わるからです。つまりグレゴリオ暦の誤差が3000年に1日とか、7000年に1日とか
いっても、閏日の1日分の補正を3000年先とか7000年先とかに行うべきということを主張する意図は全然なく
て、現時点(あるいは明治維新の時点)でのズレの“ペース”が1年あたり1/3000日や1/7000日である…と
言っているに過ぎないのです。
なぜ回帰年の長さが変わるかというと、2つの理由があります。
1. 回帰年の物理的な長さの変化
1967年まで“秒”の定義に用いられていた暦表時というものがあります。
これは太陽の平均黄経(L)と時刻(T:1899年12月31日12時からの36525*86400秒を単位とする経過時間)の
関係[1]、
L = 279°41'48".04 + 129602768".13 T + 1".089 T2
を“秒”の定義に用い、天体観測によって求めた L から T を逆算して暦表時(ET : Ephemeris Time)とすると
いうものです。天体力学によって物理的に一様な時間の流れを表現しようとするとこのようになります。
『日本暦日原典』P.544 では、(おそらく)この暦表時の定義式を用いて、1900年年初から2621年ほどで
グレゴリオ暦は1日ずれる…としています。[2]
この定義では、回帰年の物理的な長さはこの関係式を T で微分したものの逆数です。これは式にT2
の項があるため時間とともに変化します。
Y / 86400秒 = 365.24219879 - 6.14×10-6 T
T の項は惑星などによる摂動に由来する項(厳密には直接由来する寄与(恒星年の変化)と、歳差への影響
を経由する寄与(歳差のペースの変化)があります)で、実際には非常に周期の長い三角級数の一部です。
(そうでなければ遠い将来 地球は太陽に落ち込んでしまいます)
天体力学に「ラプラス・ポアッソンの定理」
>惑星の半長径は二級の近似まで永年変化を受けることがない
という定理があり、惑星の軌道半長径は非常に安定なのです。ケプラーの第3法則により、
惑星の周期は軌道半長径の1.5乗に比例しますから、惑星の公転周期(恒星年)も安定です。
2. 地球の自転の減速
wikipediaの閏秒の「長期的な問題」の項にも説明がありますが、地球の自転は次第に減速しており、これに
伴い1日の長さが(過去2700年間の平均で)1世紀あたり1.7ミリ秒ずつ長くなっています。つまり、平均すると
明日は今日より 47ナノ秒弱長い。これは物理的な長さが変わらなくとも回帰年の日数が少なくなることを
意味します。この差は非常に小さな差ですが塵も積もれば無視できない差となります。
この差は、物理的に一様な時間の流れを表現した「暦表時」(近年の用語では「地球時」)と、地球の自転角度
を表現した「世界時」の差となって表れます。今後、地球の自転の減速が正確に1世紀あたり1.7ミリ秒で
あったと仮定した場合の、「暦表時」と「世界時」の差を下図に示します。
地球の自転の減速の原因は潮汐摩擦によるとされており天体力学では予測しえない事情に左右され、
将来の確実な予測はできません。上記の表はあくまで参考です。しかし、1万年も経つと差が3~4日にも
達する計算となり、閏日のパターンに与える影響は大きなものとなります。回帰年と春分年のどちらに
同期させるにしろ、もはやグレゴリオ暦とは言いがたい閏日のパターンになってしまいます[3]。
[1] この式を導いたサイモン・ニューカムは、「機械が飛ぶことは科学的に不可能」なことを“証明”したり、
チャールズ・サンダース・パースを不遇に追いやったり、と色々話題のある人物のようです。
[2]『日本暦日原典』の初版は1975年の出版で、当時すでに 2 の効果は知られていました。したがって、
より大きな誤差の要因を無視して暦表時の式から4桁の年数を導出するのが無意味なことは、当時でも
容易に分かったはずです。 レポートでこんな計算をすれば零点です。絶対マネをしてはいけません。
[3]これらの効果をすべて考慮して、数値積分でグレゴリオ暦の春分の日付を計算した結果があるようです。
equinox alignment of the Gregorian calendar
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